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北アメリカのモノレール

メンフィス懸垂鉄道
英語: Memphis Suspension Railway

メンフィス懸垂鉄道
(c)Shutterstock.com

路線名 Memphis Suspension Railway
開業年月日 1982年7月
営業距離 518m
駅数 2駅
フロントストリートtターミナル~マッドアイランドターミナル間
複・単線 複線(単線×2)
モノレール方式 懸垂式
路線概要 アメリカ合衆国テネシー州メンフィス市内中心部より、マッドアイランド間518mを結ぶ懸垂式モノレール路線。ウルフ川を渡る歩道橋直下に敷設された平行2路線を各車両が交互に行き来する。車両の定員は180名。最高速度は11km。
メンフィスモノレール
(c)Shutterstock.com
メンフィスモノレール車両
(c)Shutterstock.com

photo by Reading Tom 
Memphis Suspension Railway

アメリカ合衆国テネシー州メンフィスには、「Memphis Suspension Railway」と呼ばれる特殊な交通システムが存在していた。これは一般的な鉄道や都市モノレールとは異なり、橋の下部に吊り下げられた軌道を車両が走行する懸垂式交通である。現在では「Mud Island Monorail(マッドアイランド・モノレール)」という名称で知られており、1982年に開業した観光輸送用モノレールであった。
メンフィスはミシシッピ川沿いに発展した都市であり、港湾都市として長い歴史を持つ。市中心部の対岸にはミシシッピ川の中洲にあたるマッドアイランドがあり、ここには1980年代に「Mud Island River Park」と呼ばれる大規模な観光施設が整備された。川に囲まれたこの島へのアクセス手段として採用されたのが、歩行者橋と一体化した懸垂式モノレールである。

このモノレールは、フロントストリート付近のメンフィス中心部とマッドアイランドを結ぶ短距離路線として建設された。路線の全長は約520メートルで、都市交通としては非常に短い路線である。橋の上部は歩行者が通行できる遊歩道となっており、その下側に軌道を吊り下げ、車両が橋の下をぶら下がる形で走行するという構造が採用されていた。この構造から「Suspension Railway(懸垂鉄道)」という名称が用いられている。


橋の上部は歩行者が通行できる遊歩道となっている。

運行方式も独特であった。このモノレールは一般的な都市モノレールのように車両にモーターを搭載して自走する方式ではなく、ケーブルによって牽引される方式を採用していた。構造的にはケーブルカーに近いが、車両は懸垂式モノレールの軌道にぶら下がって走行するため、世界的に見ても非常に珍しい交通システムとなっていた。車両はスイスで製造されたもので、1編成あたり約180人を収容できる大型車両が使用されていた。速度はおよそ時速11キロ程度と低速で、通勤交通というより観光客向けの輸送手段として運用されていた。

このシステムの技術的な特徴は、橋梁構造と交通システムが一体化している点にある。一般的なモノレールは専用の高架軌道を建設して運行するが、Mud Island Monorailでは歩行者橋の構造を利用して軌道を吊り下げる方式が採用された。そのため橋の上は歩行者、橋の下はモノレールという二層構造となり、限られた空間を有効に活用した設計となっていた。


懸垂式モノレールと一体化した歩行者橋

構造形式としては、車両が軌道からぶら下がる「懸垂式モノレール」に分類される。この方式はドイツのヴッパータール懸垂鉄道や日本の千葉都市モノレールなどでも採用されているが、それらが都市交通として長距離路線を構成しているのに対し、メンフィスのモノレールは観光施設へのアクセスを目的とした短距離交通であった点が大きく異なる。またケーブル駆動式の懸垂モノレールという形式は世界的にも例が少なく、モノレール技術史の中でもかなり特殊な存在といえる。

Mud Island Monorailは1982年の開業以降、メンフィスを訪れる観光客に利用され続けた。しかし設備の多くが独自設計であったため保守が難しく、年々維持管理の問題が指摘されるようになった。部品の供給が限られていたことや、専門的な整備技術を持つ技術者が少なかったこともあり、設備の老朽化が進んでいった。

2018年には運行中の車両が停止するトラブルが発生し、乗客が橋の上に取り残される事故が起きた。このトラブルをきっかけに路線は運休となり、その後も修理や再開の見通しが立たないまま現在に至っている。結果としてMud Island Monorailは事実上の廃止状態となり、現在ではメンフィスに残る珍しいモノレール遺構として知られる存在となった。

このモノレールは規模こそ小さいものの、モノレール史の中では興味深い位置を占めている。橋梁構造を利用した懸垂式モノレールであること、ケーブル駆動方式を採用していること、そして都市交通ではなく観光輸送を主目的として建設されたことなど、複数の特徴が組み合わさった独特の交通システムであったためである。

世界のモノレールの多くは都市交通や空港アクセスなど大量輸送を目的として整備されているが、Mud Island Monorailはそのような用途とは異なり、都市の観光施設を結ぶ短距離交通として設計された例である。橋の構造を利用した懸垂式モノレールという独自の発想は、都市交通技術の多様性を示す一例ともいえる。

現在は運行していないものの、Memphis Suspension Railwayはアメリカにおける珍しいモノレール事例として、また観光交通としての懸垂式モノレールのユニークな試みとして、モノレール史の中に記録される存在となっている。


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